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第96回 嚥下(えんげ)力リハビリ用ボトル「タン練くん」で数々の賞を受賞
株式会社リハートテック

業種:
卸売・小売
職種:
ものづくり/ 医療・福祉/ 営業/
企業訪問日記をご覧の皆様こんにちは。
 今回は、令和元年度和歌山市チャレンジ新商品グランプリにも選ばれた、「タン練くん」の開発・製造・販売を行う企業、「株式会社リハートテック」を紹介します。



 本日は、取締役 笠原 直樹 様にお話を伺いました。



Q.「タン練くん」発売に至った経緯を教えてください。

 私は、元々歯科医で、50歳になったのを機に、社会に貢献したいと、山間部の老人ホームに出向き、ボランティアでの口腔ケアを始め、60歳の時に自分で特別養護老人ホームを設立しましたが、その10年間で誤嚥(ごえん)性肺炎で苦しんでおられる方をたくさん見てきました。
 一般的な口腔ケアというのは、歯ブラシとガーゼできれいにする事が中心です。誤嚥に苦しんだ時には、お医者さんに行けば嚥下体操を行ってくれましたが、それだけでは苦しむ方は減りませんでした。
 誤嚥を無くすためには、飲み込むための筋肉を鍛えなければなりません。そこで、赤ちゃんの哺乳瓶にヒントを得て、独自に研究開発し特許を取得、発売に至りました。

Q.誤嚥性肺炎や嚥下機能という言葉に今まであまり馴染みがありませんでした。具体的にはどういった病気(症状)でどのようなリスクがあるのでしょうか?

 まず、物を食べて飲み込むまでの一連の働きを嚥下機能といいます。舌を上あごに押し付けて飲み込んでいくのですが、その時に喉頭蓋(いんとうがい)というところが連動し、気管に蓋をして誤って肺に物が入っていかないようにしているわけです。この時に、舌を押し付ける力が弱くなっていると、蓋の機能も弱くなり、気道に物が入ってしまいます。この事を誤嚥といいます。誤嚥したものが肺に入ると炎症を起こし、肺炎になってしまいます。若いうちは気道に物が入っても、咳反射により押し戻すことができるのですが、高齢になってくると咳反射が弱くなり嚥下機能が低下します。その結果、肺まで吸引され肺炎を発症します。
 厚生労働省によると、肺炎にかかって亡くなる人は全体の9.4%を占め、悪性新生物(がん)、心疾患に次いで、主な死亡要因の3位という結果になっています。

Q.「タン練くん」とはどういった器具でしょうか。

 赤ちゃんがミルクを飲むときに、舌と顎の全体を動かして一生懸命飲んでいるのを見て、これは大人にも使えるんじゃないかと思い、独自に研究開発し、特許を取得しました。吸い口に工夫があり、適切な舌圧で内容物を飲むことによって、嚥下機能の向上を目指すリハビリ用ボトルとなっております。
 

Q.「タン練くん」開発に関して苦労した点はありましたか?

 吸い口にはシリコンゴムを使っているんですが、この部分の硬さを決めるのに苦労しました。
 試作を繰り返し、実際に自分でも使用してみて現在の硬さになりました。

Q.数々のメディアで紹介され、またコンテストにおいても優秀な成績を受賞されておりますが、どのような点が評価されていると思いますか?

 やはり「原始本能」、「嚥下反応」という人間の本能を利用したところが、評価されていると思います。
 今までにも、嚥下力トレーニング用の器具はありましたが、継続してトレーニングできている方が少なかったんです。「タン練くん」は、本能を利用して、嚥下機能を訓練するリハビリ器具ですので続けやすいと思います。
  
(数々のコンテストで優秀な成績をあげる「タン練くん」)

Q.実際に使用された方からの感想などあれば教えてください。

 「食べる度にむせるので、食べること自体が怖くなってましたが、タン練くんでリハビリを始めてから、むせることがなくなり食べる楽しみが戻ってきました。」という感想を聞きました。人間は食べられなくなってくると、すごく活力が落ちるんです。しかも食べられなくなると「もう長生きできないかな」と精神面も落ち込んでいきます。ましてや、むせているときは息ができない感覚になりますのですごく恐怖があります。このような誤嚥による症状で苦しんでいる人を楽にし、喜んでいただきたいと思います。

Q.今後の目標や計画について教えてください。

 「タン練くん」の普及はもちろんですが、大手メーカーさんと連携し、舌圧測定器の普及と、舌圧と誤嚥との関係についても世の中に認知されるように広報を行っていきます。
 また、現在、商品の金額が少し高くて中々手が出せない方もいらっしゃると思います。「タン練くん」は、医療機器として認められましたので、将来的には介護保険を適応して購入できるように進めていきたいと思います。

Q.最後に、新しいことにチャレンジしようとする若者に向けて一言お願いします。

 何か新しい事業を立ち上げる時、ビジネスの部分がないと会社はお給料が払えませんので、そういう部分はもちろん必要です。しかしその中で、社会貢献の気持ちと、社会ではどういったニーズがあるのかを理解し、そこに向かって開発していくという気持ちを、最後まで途切れずに突き詰めていってほしいなと思います。

企業訪問日記担当者の感想

 

 「どうしたらこの問題を解決できるんだろう」から始まり、製品の開発、販売、広報まで、ほぼ一人で飛び回っている笠原さん。その行動力にただただ驚くばかりです。
 ましてや、50代で疑問に思い、60代で新しい事業を始めるのは、なかなか真似できることではありません。
 しかし、「新しい事業を始める」のは大きなことかもしれませんが、身の回りの小さな問題に対処していくことは誰にでもできるはずです。
 「こうなった方が良いんじゃないか?」と気付き、改善していくために、仕事に限らず家の中でもアンテナを張って生活していこうと思います。
 今回紹介しました「タン練くん」、現在はNHKで取材されたこと等をきっかけにじわじわ広がっている状況ですが、数年後には何万人もの命を救った商品として紹介されているかもしれません。

 笠原取締役、本日はありがとうございました。